Feb 23, 2014

ツェラン

 図書館で借りてきたパウル・ツェランの詩集を少しずつ読んでいる。

 とてつもなく分からない言葉の列が大半を占めているのに、時折、閃光のようなイメージが行間に迸る。それは、暗い暗い空を埋める暗褐色の分厚い雲の向こうで陰鬱にフラッシュする雷光のようだ。

 学生の頃、何度か原文にあたり、何度もツェランの「分からなさ」を味わった。分からなさは、当時の俺に意味を追尾できないもどかしさしか残さなかった。

 「分からない」ことがあたりまえなのだと腑に落ちるのに20年以上かかった。あたりまえだ。これはアウシュビッツ以降に可能になった詩なのだから。

 ツェランは、ドイツ語自体を俯瞰している。ドイツ語を死体として扱い、解剖している。

 それは、蹲ったフランケンシュタインの吐息のようなもの。
 
Todtnauberg
トートナウベルク


Arnika, Augentrost, der/ Trunk aus dem Brunnen mit dem/ Sternwurfel drauf,
ウサギギク、コゴメグサ、 星型の賽をかかげている 井戸からの飲み物、

in der/ Hütte,    
小屋の 中では、

die in das Buch/ - wessenNamen nahms auf/ vor dem meinen? -,
記念帳に -誰の名前が ぼくの名前の前に書かれているのだろう?-、
die in dies Buch/ geschriebene Zeile von/ einer Hoffnung, heute,
この記念帳に 書き入れられた 希望についての 一行、今日、
auf eines Denkenden/ kommendes/ Wort/ im Herzen,
思索する人の やって来る語への 心の中の。

Waldwasen, uneingeebnet,/ Orchis und Orchis, einzeln,
森の湿地、ならされず、 ハクサンチドリとハクサンチドリ、ひとりずつ、

Krudes, später, im Fahren,/ deutlich,
生(なま)のもの、後で、車でいくときに、 はっきりと、

der uns fährt, der Mensch,/ der's mi anhört,
ぼくたちを運ぶ人、その人も、 聞いている、

die halb-/ beschrittenen Knüppelpfade im Hochmoor,
半ば 足を踏み入れられた丸太径が高層湿原のなかに、

Feuchtes,/ viel.
湿ったもの、 たくさん。

(中村朝子訳)  

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Jan 26, 2012

べー・舟

ひょんなことから東琢磨さんにご教示いただいた
李静和さんの『つぶやきの政治思想』を読み始めた

表現形態や、しなやかにして強固な意志の所在
絶望的な不可能を「別の形式」で超えようとする方向など
昨年観た『女と孤児と虎』に重なる部分が大きく、驚いた

しかし何よりも驚いたのは
繰り返し現れる「べー・舟」という言葉
この何年かの間に俺が考えてきた事柄と響きあう所があり
胸が熱くなった


               *


読むべきタイミングに
読むべき本は必ず向こうからやってくる
それを見逃さないようにするためには
ある程度の分量の古典的な本を(ただ古典であれば良いわけではない)
まだ頭の柔らかい内に、詰込むようにして読んでおくと良い
老人の繰り言のような物言いだけれど
自然と、そう思うようになった


               *


寒い日が続いて
犬も人も、炬燵の側から離れ辛い

ついうたた寝して、目を覚ますと
傍らには犬と人がいる
この舟で、水面を行く

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Jul 16, 2011

アイデンティファイ

そろそろ使ってしまわないといけないスパムがあったので
ゴーヤを買ってきてチャンプルーにした

夏の定番
生姜を入れ、中華スープをベースに味付けするのが自分流
溶き卵を入れたら火を止め、混ぜながらとろり絡むよう仕上げます


               *


レシピ本を見ても
だいたいの材料、調味料のバランスを頭に入れて
目分量で料理してしまうことが多いのだけれど
久しぶりにキッチンカウンターに開いた本を睨みながら
ほぼきっちり分量通りでヤムウンセンを作ってみた

現地の屋台で取材して
直々に分量を聞いて出来上がったというレシピ
ふんふんなるほど、こういう風になるんだなあ
流石に美味しいわ
でも、自分の想像もそんなにハズしてはいないな


               *


ふとしたきっかけで知った瀬戸正人という写真家の
自叙伝的な本を古書で書い、一気に読んだ

残留日本兵として、復員すること無くタイのベトナム人社会に同化した父と
ベトナム系タイ人である母を両親にもつトオイは
8歳で両親と共に福島に「帰国」して正人となり
やがてカメラを手にタイ・ベトナムを訪れる……

前半は、形容詞、形容詞句、副詞、副詞句が過剰で
ちょっと読むのがしんどいのだけれど
次第に文章も読みやすくなっていった

ナショナル・アイデンティティーを巡る一つのカウンターとして
とてもとても面白い「物語」だった

己を己がアイデンティファイするその過程は
ポール・オースターの三部作のようでもあり
既にもう無いはずの子供時代を取り戻そうとする感覚は
カズオ・イシグロの幾つかの小説とも似ている

この人が今の福島を語るのを、少し期待しながら待っていたりする

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Feb 20, 2011

「わたしたち」を殲滅せよ

嫌韓、嫌中というのは実に楽な態度表明だろうと思う
朝日新聞的な親中と何も変わるところがない

大勢の中に埋没するのは、さぞかし「安心」なことだろう
そうやって「あいつら」を作るための「わたしたち」に埋没して
立派なニンゲンになれば良い

貴様ら
一人称単数で喋りやがったら承知しねえぞ


               *


主にアメリカの関与を軸とした
エジプトの民衆運動を巡る憶測をあれこれ拾い読みしていた

面白くないのは「私が以前にも言ってた通り斯々然々」タイプの文章
知識と読みのアドバンテージを誇示したい類のものだ
こういうのが一番度し難い馬鹿だと思う

歴史が進もうが後代になろうが
ネットを通じた莫大なリークがなされようが
何もかもすべての事情に完全に通じた正しい見解などあり得ない

例えば、だ
『フロスト×ニクソン』のような作品が作品として成立し
鑑賞の対象となり、消費の対象となり得るのは何故なのか
ちょっとその程度のことを考えてみたらどうだ

延世的な相対主義をぶっているわけじゃない
絶対者を想定できない愚を「馬鹿」だと罵っているだけだ
幽霊は科学的には存在を証明できないとかいう愚と同じ
たぶん、どこまでいったって話になんかならない

絶対者を想定できない愚は
民を愚弄する愚と背中合わせに一つ
要するに、思い上がりなんだよ


               *


カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読んでいる

うろうろと辺りを旋回すること無く
端からプロットの真っ只中で物語が始まる

読み進めるのがとても楽しい


               *


こないだの大阪で買ったPHEW×BIKKEのカセット・テープ

まだ聴けてない……
仮に、音に飢えていた十代の自分が今の俺を見たら
跳びかかって胸ぐらを掴み、激しく前後に揺さぶるだろう

仕事が終わったら、何はさておき、聴こう

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Jan 18, 2011

ごま油の愉悦と殺される側の論理

ご近所のイルソンさんから
キムチやナムルのレシピが載っている本を頂いた
(「なすんじゃさんのキムチ・ナムルとおかずの教室」という本)
まずは手軽なところから、ナムルを作ってみる

人参のナムルは二種類の作り方が紹介されていたのだけれど
さっと軽く湯通しして作る方を試してみる
30秒ほど湯がいて冷水に取り
絞らずに良く水を切ってから、塩、ごま油、胡椒、煎り胡麻と和える
大根のは塩もみして絞り、酢を加えただけのシンプルなもの
手前の菜の花はナムルではなくマスタードと出汁で和えた

彩りも綺麗だし、シンプルな美味しさは後を引く
すっかり気に入って、翌々日にはほうれん草のナムルにも挑戦
ごま油の香り、すごく良いなあ

白菜のキムチ作りはちょっとハードル高そうだけれど
暇を見て、あれこれ試してみたい


               *


病院の待合で横塚晃一の『母よ!殺すな』を読み始める
震えるほどに冷徹で、抉り込むような言葉に打たれる
二十年以上前、遺跡発掘のバイトに行く途中
電車の中で読んで震えが止まらなかった
エックハルトの説教の数々を思い出す
そこで説かれていることは
それぞれにまったく違う事態へと向けられているのだけれど
言葉が射出されるその立ち位置は、完全に一致している

健常、もしくは健全マイナスαで弱者や障害を捉えるニンゲンが
いかにしてガス室を作り出す精神構造と直結しているのかを
これほどまでに明瞭な形で語り得ている文章を、他に知らない
この逆説のからくりを自覚せずして「差別」を語る「ヒューマニスト」を
己が「あさましさ」を隠蔽して弱者に「手を差し伸べる」ことに酔う欺瞞を
俺は絶対に信用しないし、肯定しないし、激しく憎む

一つ一つの文章は短いし
くり出される論理は明瞭で筋道はハッキリしている
一人でも多くの人に、この本が読まれることを願って止まない

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May 01, 2010

whole sort of general mish mash

牛歩のごとく、などと言うと牛に失礼な気がしてきた

相変わらず、カタログやレビューを睨みながら
モニターやマイクの品定めを続けている

世間やシーンなどという幻影から生身を切り離したのだ
馴合や惰性も斧で断ち切った
やりたいことはもう見えているし、焦りも無い
日々を生きることとの兼ね合い折り合いに
当たり前のように時間がかかるだけのこと

牛以下で結構


               *


休日、自転車で川沿いを下り、タイ料理を食べる
パクチー無料で増量サービスが嬉しい

街中を歩いて、輸入食品や雑貨、服を選ぶ
久しぶりにあれこれ買い物した

当初はケーキとお茶を予定していたのだけれど
何故か行き着いた先はビアレストラン
油淋鶏と生ビールで乾杯と相成った
なんでやねん
まあええやん


               *


琴線に触れた料理の味は結構後々まで糸をひく

ランチでタイ料理を食べた翌日
仕事帰りに自転車を漕ぎながら
家にある材料を彼是思い出しつつメニューを練る

千切りにして水に晒したメークインと
人参、ピーマン、エリンギをそれぞれ千切りにしたもの
豚ロース肉の細切りを材料にして
レッドカレーペーストとココナッツミルクを使った炒め煮を作った
若干のナンプラーと砂糖で味を整えただけなのだけれど
とても美味しく仕上がった

茹で置きしてあったエビとカニカマ
新玉ねぎのスライス、セロリ、トマトと大葉を使って
ナンプラーベースのレモンドレッシングでサラダも作る

茹で鶏は辛子ポン酢に葱
冷奴にはエノキの佃煮と生姜のみじん切りをのせて

初夏を感じさせる、如何にも我が家らしい、良い食卓だった

生姜と葱の香りが移った茹で鶏のスープは
翌朝、フォー・ガー用の固形スープを足して味を整え
島の光を湯がいて無国籍なにゅうめんにした
三つ葉と茹で鶏とエビと葱をトッピングして
レモン果汁を回しかけてふうふう言いながら食べると
とても幸せな気分になれた


               *


毎朝PCの壁紙で先生のお姿を拝んでいる日本人男性は
おそらく俺一人であろうと想像する
我が家のDVDファイルには
最近、めでたく「ビル・ナイ」の背表紙が追加された
もはやビル・ナイはジャンルなのである

その御本尊、大先生の繋がりから
馬鹿SFの金字塔『銀河ヒッチハイク・ガイド』のシリーズを読み始めている

ダグラス・アダムスはパイソンズとうっすら繋がっていたそうだ
なるほどなあと思う
壮大な馬鹿法螺と愛に満ちた辛辣な皮肉のオン・パレード
終始ニヤニヤ笑いながら読書することになる

なんで今まで知らなかったんだろう?
でもまあ、今だから余計に楽しめるような気もするなあ

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Sep 18, 2007

奄美の声

そういえば、その日
ターコ君に大阪のエイサー祭りに誘われてたな


               *


蒸し暑い午後
アイスクリームを買いに出たときのこと
近所にあるマンションの一階部分がお店になっていて
中途に開いた扉の向こう側に大量のアロハが見えた
ああ、この店は多分……

 ビンゴ!

レジに座ってハワイアンを聴いている店主は
昨年からBAR・HAWKWINDに大量のアロハを置いていた
あの「アロハのおっちゃん」だった

細々した古道具や楽器、レコードがあって
壁に面した書棚には面白そうな本が沢山並んでいた

 (嗚呼、此処には必ずある)

かくして
思った通りの背表紙があり
諦めにも似た不思議な気分で数百円を支払った



島尾ミホの『海辺の生と死』を初めて読んだのは
確か、十代最後の歳だったはずだ

蒼い夜のような美しさと
真昼のように不吉な予兆との
ハイ・コントラストな絡み合いに
何度も何度も息を呑みながら
文字を追い、頁を捲った

島尾敏雄の『死の棘』に裏張りされている聖性が
どのようにして己が血と肉で保障されているのかを
その「本の中のミホさん」は、語っていた

捻じ曲がった時空の彼方から
しかし馴染みのある言葉で聞こえてくる
祝詞のような音楽のような
そんな文章だった


               *


今年の三月に
ミホさんが亡くなったというニュースを目にしたとき
不謹慎だけれど、とても安堵したことを思い出す

多分俺は
深く齢を重ねて妖女のようになり
優しい笑みを薄く浮かべて南に座するミホさんに対し
畏怖というよりも
恐怖に近い感情を持っていたのだと思う

だから多分
ホッとしたんじゃないだろうか?
だから多分
ソクーロフが加計呂麻島で撮ったドキュメントも
未だ観ないままいるんじゃないだろうか?


               *


しかしそれにしても
しかしそれなら何故

何故、そのハードカバー本を
まだ文庫本を手放したわけでもないのに
聊かの躊躇も無く買ったのか?


               *


本とアロハとアイスクリームを手にして路地を曲がると
近所の窓から、素っ頓狂なほど大きなボリュームで
スティール・ギターのねっとりした音色が聞こえた

どうやら今日は南の島に追いかけられているようだね
そう言って、相方と顔を見合わせ、笑った

夏の揺り返しを帯びた大気も
南からの湿気を
じっとりとその内に含んでいた

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Mar 29, 2006

読む

「われわれは他人を読む。しかしまた同時に他人によって読まれている。この二つの「読み」は干渉しあう。ある人に対して、われわれがその人について行なう「読み」と同じものを、その人もまたその人自身について行なうようにと強制すること(奴隷の状態)。ほかの人びとに対して、われわれが自分自身について行なう「読み」と同じものをわれわれについて行なうように強制すること(征服)。機械的な操作。往々にして、つんぼ同士の対話。」

シモーヌ・ヴェイユ 『重力と恩寵』より

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Dec 08, 2005

drift and drift

兄の2回目の命日を、殆ど眠って過ごした

少しずつ風化していく記憶と、どこまでも風化できない記憶がある
すべて、なすがままにする


               *


3日
MSTKの運転で東京へ向かった
車中は相変わらず馬鹿笑いの渦
イノウエ購入のi-podのお蔭で、音楽には事欠かず

夕刻前にホテルにチェックインして
京王線を乗り継いで下北沢に到着

何も説明する必要が無い、素晴らしい友人達と再会して
ゆったりした気分でリハを終えて
気分的にはすっかり宴会モード

少々押さえ気味に酒を飲んで
久々にあうウミちゃんとアレコレ話したり
RK2と爆笑しながら話したり

BRIGHTLINERは意志の塊のような音だった
しかし手触りは滑らかなのだ
肌理細かなテクスチャーにしみこんだ強靭な意志
気づいている人間は少ないだろうと思う

僕等は、いつもに輪をかけて過剰にアットホームなライヴ
ええんだろうか?
まあ、ええか

ライヴを終えて外気を吸いに外に出る
ひっそりとした入り口のところでYさん発見
挨拶をしてから、色々と話す
沢山笑ってくれたのが印象的だった
最後は、寒いからハグしましょう、ということでしっかり抱擁・ガッチリ握手
会えてよかった


結局FIRESTARTERはほんの少ししか観れなかったけど
アンサンブルに強靭さが増しているような気がした

我が妹、Wrayとも久しぶりに会えて、本当に嬉しかった

RK2とウミちゃんと一緒にラーメンを食いにいってから
忘年会(馬鹿宴会)スタート

何時ものステージ脇、ならびに楽屋席で延々と話す
馬鹿笑い&シャウトの応酬で、喉枯れる

大槻(ベロベロ)の呼びかけで、その場にいた人間の殆どがステージにあがり
わけの分からん集合写真を撮影する
アカン、楽し過ぎる……


深夜、タクシーでホテルに戻り
ビールを飲んで就寝

翌朝、朝食を食っていると
見たことの無い若者が声をかけてきた
なんでも愛媛から5時間かけてわざわざ観に来てくれたのだとか
本当にありがたい話だ
丁寧に礼を述べておく


高円寺でブラブラして、TCO氏に挨拶などしたりして
午後2時ごろ東京を発つ
途中から雨

なんか寂しいね、楽しすぎただけに


               *


ツアーを挟んで読んでいたグレッグ・イーガンの『万物理論』を読了
例によって同調率が高い
もう、シンクロは恐れんよ
どっからでもかかってこんかい


               *


休日
朝方、犬の夢を観ていた

毛の長い小型犬
白と黒と茶の長い毛、顔が隠れるほどの
なんという種類だろうか?

犬は僕と話している
ごろごろ地面を転がって、毛が随分汚れている
手を差し入れて撫でてやると、全身を震わせて喜んでいる

そうだ
彼女と彼のことを、犬は語ってくれたのだ
俺がとった行動について話すと
犬は「それで良いよ、それ以外何ができた?」と言った

犬は水溜りに小便をして
跳ね回りながらジョークを言っていた


               *


『海を飛ぶ夢』を観た
アレハンドロ・アメナーバルの天才に衝撃を受ける
ずっと、泣き通しだった

もうシンクロは恐れない
どっからでもかかってこい

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Aug 24, 2005

紙魚釣り

ちょっと、夢に見たものを脚色して読み物にしてみました
馬鹿げてますけどね
余程暇の折にでもどうぞ

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